Clinical Case Review ― Neurodegenerative Overlap

DLB/PSP 重複病態が疑われる症例の
臨床的考察と文献レビュー

作成日:2026年2月7日 分類:症例検討資料(内部使用) キーワード:DLB, PSP, 混合病理, 核上性注視麻痺, ジストニア
SECTION 01

症例提示

臨床情報(匿名化済み)
主治医の診断
レボドパ反応性のあるパーキンソニズム(PSPの可能性が示唆されている)
主な運動症状
上方注視障害、屈曲姿勢(頸部・体幹)、すくみ足、筋強剛、転倒頻度増加
有痛性ジストニア
屈曲姿勢増強時に股関節周囲の筋痛出現、体動困難に至る場合あり
認知・行動症状
認知機能低下、幻覚の影響と考えられる行動障害(床の物を拾おうとする等)、転倒時の状況説明が都度変化
自律神経障害
尿便失禁が頻発
睡眠障害
発症初期にレム睡眠行動障害(RBD)あり、現在は消失
薬物反応
レボドパ反応性あり
経時変化
症状が1週間単位で変動し、対処に困難を来している
▲ 臨床上の問題点

本症例はPSPの特徴(上方注視障害、すくみ足、転倒)とDLBの特徴(RBD、幻視、認知変動、自律神経障害、レボドパ反応性)が混在しており、単一の疾患概念では十分に説明できない。特に有痛性の屈曲ジストニアによるADL障害と週単位の症状変動への対処が喫緊の課題である。

SECTION 02

鑑別診断の検討 ― DLB vs PSP vs 混合病理

DLB診断基準(2017年第4次合意基準)との照合

中核的臨床特徴本症例判定
認知機能の変動 転倒時の説明が都度変化(注意・覚醒の変動を示唆) 該当の可能性
繰り返す具体的な幻視 床の物を拾おうとする行動(幻視に基づく行動障害) 該当
レム睡眠行動障害 発症初期にあり(現在消失) 該当
パーキンソニズム 筋強剛、すくみ足、レボドパ反応性 該当

中核特徴4項目中3〜4項目に該当し、probable DLBの基準を満たす可能性が高い。加えて、重度の自律神経障害(尿便失禁)と繰り返す転倒は支持的特徴として合致する。

PSP(MDS-PSP 2017年基準)との照合

PSPの典型的特徴本症例合致度
垂直方向の核上性注視麻痺 上方注視障害あり(下方注視障害は後から出現) 部分的
後屈姿勢(retrocollis) 前屈姿勢(屈曲優位) → PSPの典型とは逆 非典型的
早期からの転倒 転倒頻度増加あり 合致
RBD 発症初期にあり → PSPでは非典型的 PSPに合致しない
幻覚 あり → PSPでは極めて稀 PSPに合致しない
自律神経障害 早期からの尿便失禁 → PSPでは終末期の特徴 PSPに合致しない

総合的な鑑別確率

① DLB基盤 + 中脳病変進展によるPSP様症状 最も高い
② DLB + PSP 混合病理(dual proteinopathy) 高い
③ PSP-P基盤 + 併存レビー小体病理 低い
★ 判断の根拠

RBDの発症初期存在はα-シヌクレイノパチーの強力なバイオマーカーであり、タウオパチーであるPSPでは典型的でない。幻視、自律神経障害、認知変動、レボドパ反応性のすべてがDLBの中核特徴に合致する。一方、上方注視障害やすくみ足はDLB単独でも説明可能だが、その程度や性質によっては混合病理の示唆となる。

SECTION 03

DLBにおけるPSP様症状の文献的根拠

DLBからPSP様の核上性注視障害が出現することは稀ではあるが、複数の報告がある。

核上性注視麻痺を示したDLB症例

Clerici et al.(2005)は、パーキンソニズム・認知症・核上性注視麻痺を三徴として呈したprobable DLBの初の生前診断症例を報告した。この症例はコリンエステラーゼ阻害薬で治療された[1]

Nakashima et al.(2003)は、核上性注視麻痺を伴うDLBの剖検確認症例を報告しており、中脳のα-シヌクレイン病理がPSP様の眼球運動障害を引き起こしうることを示した[2]

ScienceDirectの総説では、核上性眼球運動障害がDLBでも生じうることが複数の剖検研究で確認されている(Lewis & Gawel 1990; Fearnley et al. 1991; De Bruin et al. 1992; Daniel et al. 1995; Brett et al. 2002)[3]

■ エビデンスの要点

DLBにおける核上性注視麻痺は稀ではあるが確実に報告されている。メカニズムとしては、α-シヌクレイン病理が中脳の眼球運動関連核(riMLF、INC等)に及んだ場合に、PSPと臨床的に類似した注視障害を生じうると考えられる。

PSPの臨床診断と剖検診断の不一致

Josephs & Dickson(2003)の研究では、臨床的にPSPと診断された180例中、剖検でPSP病理を確認できたのは約36%にとどまった。残りの診断にはCBD、MSA、びまん性レビー小体病(DLBD)、Creutzfeldt-Jakob病が含まれていた[4]。この知見は、PSP様の臨床像を呈する症例の基盤にDLB病理が存在しうることを強く示唆する。

SECTION 04

PSP眼球運動障害の解剖学的基盤と「下方注視先行」の再考

riMLFとINC ― 2つの独立した障害機序

riMLF(吻側間質核) 垂直サッカードの興奮性バースト神経 障害 → サッカード速度低下 上方:両側性投射 → nIII 下方:同側性投射のみ → nIII INC(Cajal間質核) 垂直注視保持のneural integrator 障害 → 注視範囲制限(速度は保持) linear VOR異常、VEMP異常 後屈(retrocollis)との関連 「遅いサッカード」 速度低下>範囲制限 「注視制限」 範囲制限>速度低下 Chen & Leigh (2010):個々のPSP患者でriMLF障害とINC障害の比率が異なる
図1:PSPにおける垂直サッカード障害の2つの独立した機序(Chen & Leigh 2010に基づく)

「下方注視先行」の通説に対する再評価

Chen & Leigh(2010)による50例のPSP患者を対象とした大規模後方視的研究は、PSPにおける眼球運動障害の理解に重要な修正を加えた[5]

■ Chen & Leigh (2010) の主要知見

50例のPSP患者の後方視的解析において、上下方向のサッカード速度・振幅に統計的な非対称性は認められなかった。著者らは「下方注視がより障害される」という従来の認識を「misconception(誤解)」と明示的に位置づけた。

誤解が生じた理由として以下の2点を挙げている:①健常高齢者には加齢性の上方注視制限(Blickerschwernis)が存在するが下方注視制限はないため、臨床家は下方注視障害をより確実な所見と判断しやすい。②下方注視障害を持つPSP患者は、日常活動の多くが下方視野で行われるため、より視覚的に障害され、臨床的に目立つ。

歴史的にも、Steele et al.(1964)による原著記載の9症例では、上方・下方両方の注視麻痺が記述されていた。NINDS/SPSP基準でも下方注視麻痺は診断に必須ではない[6]。MDS-PSP 2017年基準のO1(最高確実度の眼球運動所見)は「上下両方の注視に影響する垂直方向の核上性注視麻痺」と定義されており、下方優位性への言及はない[7]

本症例への含意

本症例で観察された「上方注視障害が先行し、屈曲姿勢を伴う」パターンは、以下のように解釈可能である:

仮説A:INC優位の障害

INC障害が先行 → 上方注視範囲制限が出現。riMLF障害は軽度 → 速度低下は目立たない。ただしINC障害は通常retrocollis(後屈)と関連し、本症例の屈曲姿勢とは矛盾する。

仮説B:代償姿勢(最も妥当)

上方注視制限 → 正面視を維持するために頸部・体幹を屈曲 → 代償的な前屈姿勢。すなわち屈曲は一次的なジストニアではなく、視覚的代償戦略の結果である可能性。

仮説C:DLB特有の機序

α-シヌクレイン病理が中脳に波及 → PSPとは異なる分布で眼球運動核が障害 → 上方注視が先に障害され、かつDLB/PD特有の屈曲姿勢が併存。

SECTION 05

DLB幻視の病態生理と本症例への適用

主要理論モデル

モデル機序主要文献
PADモデル
(Perception–Attention–Default mode network)
視覚的知覚障害 + 注意障害 + デフォルトモードネットワーク活性化の組み合わせにより、内的生成イメージが外的知覚として体験される Shine et al. 2014
視床-視床網様核-皮質モデル 視床網様核におけるα7ニコチン性コリン受容体活性の低下 → 視床-皮質の脱抑制 → 異常な視覚的活性化 Onofrj et al. 2019[8]
予測符号化モデル ベイズ脳の枠組み:トップダウン予測(prior)が過度に強化され、ボトムアップの感覚入力による修正が不十分 → 予測が知覚として経験される Adams et al. 2013
パレイドリア 曖昧な視覚刺激(ノイズ、影、パターン)が意味のある形象として知覚される。DLBで高頻度 Yokoi et al. 2014

「床の物を拾おうとする」行動の病態解釈

本症例で観察される「幻覚の影響か急に床の物を拾おうとする」行動は、上記モデルに照らして以下のように解釈される。

PADモデルの観点では、視覚処理経路(腹側経路=物体認識)の障害により、床面のパターン・影・コントラストが誤って「物体」として知覚される。注意の変動が重なることで、この誤認識に対する批判的評価が不十分となり、即座の行動(拾う)に結びつく。予測符号化モデルでは、「床に何かがある」というトップダウン予測が過度に強く、ボトムアップの感覚修正(「実際にはない」)が機能していない状態と解釈できる。

▲ 臨床上の重要性

この行動パターンは転倒の直接的なトリガーとなっており、リハビリテーション上の最優先介入対象である。環境調整(床面のコントラスト低減、均一な照明、柄のある床材の回避)が病態生理に基づいた合理的対応となる。

SECTION 06

有痛性ジストニアとレボドパ関連運動合併症

DLBにおけるジストニア

ジストニアは非定型パーキンソニズム全般で報告されるが、DLBではPSP・MSA・CBDと比較して頻度は低いとされる。しかし、レボドパ治療中のDLB患者ではPDと同様のレボドパ関連運動合併症が生じうる[9]

特にDLBではドーパミン受容体の感受性が不安定であり、PDより早期かつ低用量でwearing-off現象やon-off現象が出現しやすい。レボドパとジストニアの時間的関係によって以下の3つのパターンが鑑別される。

パターン発生時期特徴対応
Off時ジストニア 薬効切れの時間帯 有痛性の持続的筋収縮。股関節屈筋・下肢内旋筋に好発。早朝に多い レボドパの投与間隔短縮、持効性製剤への変更
Peak-doseジストニア 薬効のピーク時 異常姿勢、ジスキネジアを伴うことが多い レボドパ減量
Diphasicジストニア 薬効の立ち上がり・消退時 反復性の異常運動 用量・投与タイミングの微調整
◆ 本症例への適用

屈曲姿勢増強時の股関節周囲の有痛性筋収縮は、Off時ジストニアの可能性がある。鑑別のために、疼痛の発生時間帯、レボドパ服用からの経過時間、活動状況を1〜2週間記録することが推奨される。Off時ジストニアであれば、投薬タイミングの調整で劇的に改善する可能性がある。

また、ジストニアの出現とドーパミン作動薬の高い血中濃度に密接な関連がある場合は、レボドパの減量や中止も検討すべきとされている[9]

「週単位の変動」の考えられる要因

DLBの認知・運動症状の変動は通常、時間〜日単位とされるが、週単位の変動を説明しうる因子として以下が挙げられる:

レボドパ蓄積と反跳

DLBではドーパミン受容体感受性が不安定。投薬調整の影響が数日遅れて発現しうる。

潜在的感染

尿便失禁 → 尿路感染リスク高。潜在的UTIが症状増悪の誘因となりうる。

睡眠構造の障害

RBDは消失しても睡眠の質の低下は持続。睡眠の質の変動が認知・運動に波及。

コリン作動系の変動

DLBの認知・注意変動の基盤。コリン作動系の不安定さが運動系にも影響しうる。

SECTION 07

混合病理(Dual Proteinopathy)の概念

PSPとレビー小体病の共存

Uchikado et al.(2006)による大規模剖検研究は、α-シヌクレインと4Rタウの病理が同一脳内に独立して共存しうることを示した[10]

知見詳細
頻度 290例のPSP確定例中31例(11%)にレビー小体を検出
分布 PSP内のレビー小体はLBDと同様の分布パターンを示す
細胞内共存 二重免疫染色で、α-シヌクレインとtauは少数の例外を除き異なる神経細胞に存在
神経細胞脱落 PSP/LBD混合例では、PSP単独・LBD単独より黒質の神経細胞脱落が高度
解釈 レビー小体はPSPとは独立した疾患過程を反映。両方の病理に黒質が脆弱
★ 混合病理の臨床的意義

混合病理が存在する場合、臨床像は「DLBの特徴もPSPの特徴も持つ」非典型的な表現型を呈する。黒質の両疾患過程による加重損傷は、より重度のパーキンソニズムとレボドパ反応性の変動を説明しうる。

Jellinger(2025)の総説では、併存病理がPSPの臨床像に与える影響が系統的にレビューされており、混合病理の存在が予後や治療反応性に影響することが指摘されている[11]

本症例における混合病理の可能性

α-シヌクレイン RBD、幻視、認知変動 自律神経障害、L-DOPA反応性 屈曲姿勢 4Rタウ 核上性注視麻痺 axial rigidity 重複領域 すくみ足、転倒 筋強剛、認知症 本症例:DLB特徴が優位 + PSP様要素が併存
図2:本症例における症状の帰属分析(α-シヌクレイン vs 4Rタウ)
SECTION 08

リハビリテーション上の実践的対応

① 有痛性ジストニアへの対応(ADL障害の最大要因)

疼痛パターンの記録項目(1〜2週間)
発生時間帯
起床時、午前、午後、夕方、夜間のどの時間帯に多いか
L-DOPAとの関係
服用後何分/何時間で出現するか、服用前に増悪するか
活動との関係
安静時、歩行時、姿勢変換時のどの場面で増悪するか
持続時間
分単位か時間単位か
部位
股関節屈筋、大腿内転筋、腰背筋など具体的分布
姿勢との関連
屈曲姿勢がどの程度まで進行した時点で疼痛が出現するか

② 幻視に基づく行動障害への環境調整

介入根拠具体策
床面コントラストの低減 パレイドリア・視覚予測エラーの誘発刺激を減少 単色の床材、柄のある絨毯の除去
均一な照明 影の発生はパレイドリアのトリガー 間接照明の追加、窓からの直射光の制御
時間帯パターンの把握 幻視は夕方〜夜間に増悪する傾向 行動出現の時間帯を記録
不要な物品の除去 視覚的ノイズの低減 生活空間の整理・簡素化

③ 転倒記録の客観化

◆ 認知変動がある場合の記録体制

本症例では認知変動のために、本人からの転倒状況聴取が信頼性に限界がある。これは「嘘をついている」のではなく、エピソード記憶の符号化が変動しているか、前頭葉機能障害による記憶のソースモニタリング障害が原因と考えられる。

推奨される対策:転倒の即時記録を介護者・スタッフが行う体制への切り替え、転倒日誌を本人ではなく環境側(介護者記録、可能であれば見守りカメラ・センサー)で管理する。

④ 週単位の症状変動への対応戦略

症状が週単位で変動する場合、以下の系統的モニタリングにより誘因を同定できる可能性がある。

記録すべき変数
運動機能
歩行能力(すくみ足の頻度、歩行距離)、姿勢(屈曲の程度)
疼痛
部位、強度(VAS/NRS)、発生パターン
認知
注意・覚醒レベルの変動(「良い日」「悪い日」の記録)
行動障害
幻視に基づく行動の頻度と時間帯
排泄
失禁の頻度(尿路感染の早期検出のため)
睡眠
睡眠の質、中途覚醒、日中傾眠
投薬
レボドパの服用時刻と各症状との時間的関係
SECTION 09

総括と臨床的提言

★ 臨床判断の要約

本症例は、DLBの中核的臨床特徴を複数満たしつつ(RBD既往、幻視、認知変動、自律神経障害、レボドパ反応性)、PSP様の眼球運動障害やすくみ足を併せ持つ。単一疾患概念では十分に説明できず、以下の枠組みで理解することが臨床的に最も有用と考える。

作業仮説:DLBを基盤疾患として第一に考え、PSP的要素は混合病理(dual proteinopathy)または中脳へのα-シヌクレイン病理進展として理解する。

主治医への情報提供として推奨される内容

項目内容
DLB基準との照合 中核特徴4項目中3〜4項目に該当し、probable DLBの可能性がある旨の情報提供
バイオマーカー検査の提案 DATスキャン(ドーパミントランスポーターSPECT)およびMIBG心筋シンチグラフィが未施行であれば検討価値がある
コリンエステラーゼ阻害薬 DLBであれば認知機能と幻視の両方に対して第一選択。PSPでは標準使用されないため、診断の枠組みが治療戦略に直結する
レボドパ関連合併症 有痛性ジストニアがOff時現象またはpeak-dose現象である可能性。リハ場面での疼痛パターン記録の結果を共有
神経遮断薬の回避 DLBの場合、定型・非定型抗精神病薬への過敏性(neuroleptic sensitivity)があるため、幻覚への対応として神経遮断薬使用は高リスク
◆ リハビリテーション専門職としての貢献

本症例において、リハビリテーション場面で得られる運動機能・行動・疼痛パターンの縦断的観察データは、診断と治療の両面で極めて価値が高い。特に、①有痛性ジストニアとレボドパの時間的関係、②幻視に基づく行動の発生パターン、③週単位の症状変動と環境・身体的因子の相関についての系統的記録は、主治医の治療方針決定を直接支援するエビデンスとなりうる。

SECTION 10

参考文献

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[2] Nakashima H, Terada S, Ishizu H, et al. An autopsied case of dementia with Lewy bodies with supranuclear gaze palsy. Neurol Res. 2003;25(5):533-537. doi: 10.1179/016164103101201788
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